大分地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決 1997年2月04日
大分市大字三芳二〇二五番地の一
原告
第二はとタクシー株式会社
右代表者代表取締役
佐藤弘章
右訴訟代理人弁護士
山本洋一郎
同
三井嘉雄
大分市中島西一丁目一番三二号
被告
大分税務署長 丸尾博康
右指定代理人
小澤正義
同
比嘉毅
同
古門照憲
同
瀬名波廣
同
畑中豊彦
同
佐藤賢司
同
高野潔
同
橋本洋一
同
竹本龍一
同
池田和孝
同
河口洋範
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告が原告に対し平成元年七月三日付けでした原告の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度、同年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度、同年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。
二 被告が原告に対し平成元年七月三日付けでした原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額二〇七万八九七二円及び納付すべき法人税額六四万四一〇〇円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分のうち重加算税額一〇一万八五〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。
三 被告が原告に対し平成元年一二月二五日付けでした昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、所得金額六六三万〇八六九円及び納付すべき法人税額一九八万九〇〇〇円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分のうち重加算税額一六万四五〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が、いわゆるタクシー業を営む株式会社である原告に対し、原告の法人税確定申告が虚偽のタクシー営業権リース契約等に基づくものであることを理由として、法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をしたことにつき、右リース契約等は真実締結されたものであるから、被告が右契約が架空のものであること等を理由に原告の所得を過大に認定したのは違法であるとして、原告が被告に対して右各処分の取消を求めたものである。
一 争いのない事実
1(一) 原告は、一般乗用旅客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社であり、有松懋(以下「有松」という。)により昭和四〇年一〇月八日に設立された。原告の商号は、設立当初きんぐタクシー株式会社であったが、昭和五八年七月一日から第二はとタクシー株式会社、平成元年一月一〇日から平成はとタクシー株式会社、同年二月八日から再び第二はとタクシー株式会社に順次変更され、現在に至っている。
(二) 原告の全株式四九五〇株は、昭和五八年、原告の株主であった有松ほか五名の株主から河野秋則(以下「河野」という。)へ譲渡され、さらに、河野から株式会社東商(以下「東商」という。)へ譲渡された。その結果、東商は、原告の株式を一〇〇パーセント保有する株主となった。
(三) 東商は、大分県下のタクシー会社六社を構成会社とし別府市に拠点を置く「はとタクシーグループ」に属し、右グループのオーナーである梅野朋子(以下「梅野」という。)らが全株式を所有している会社であり、医薬品、食品、雑貨等の輸出入及び販売並びに不動産販売等を目的としている。
2 原告は、被告に対し、昭和五九年三月期(昭和五八年四月一日から翌年三月三一日までの事業年度。以下、各事業年度については、その終了の年月をもって「何年三月期」と表示する。)から平成元年三月期までの各事業年度(以下、これらを一括して「本件各事業年度」という。)の青色の法人税確定申告書に、別表(1)の1の「確定申告」欄のとおり記載して、それぞれ申告した(なお、昭和五九年三月期については、同表の「修正申告」欄のとおり記載して修正申告した。)。
3 被告は、前項の確定申告又は修正申告のうち、昭和五九年三月期から昭和六三年三月期の各申告に対しては平成元年七月三日付けで、同年三月期の確定申告に対しては同年一二年二五日付けで、それぞれ同表の「更正処分等」欄記載のとおり、各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)を行った(なお、平成元年三月期については、原告が同年七月二〇日から平成二年三月二日までの間、別府税務署管内に転出していたため、別府税務署長が更正処分等を行った。)。
4 原告は、本件課税処分に不服であった(ただし、昭和六〇年三月期、昭和六三年三月期及び平成元年三月期に関しては、別表(1)の2の「争わなかった加算額」欄記載のとおり、不服がなかった部分もある。)ので、国税不服審判所長に対し、平成元年七月三日付け更正処分(昭和五九年三月期から昭和六三年三月期までの各事業年度に関するもの)については平成元年九月一日に、同年一二月二五日付け更正処分(平成元年三月期に関するもの)については平成二年二月二三日に、それぞれ審査請求をしたところ、同所長は、平成二年一一月二七日付けで右各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、そのころ、右裁決書謄本が原告に送達された。
5(一) 更正処分について
本件課税処分のうち争いのある額の内訳は、別表(2)記載のとおりであり、同表の<1>ないし<6>の内容は以下のとおりである。
(1) タクシー営業権使用料及び車両賃借料(別表(2)<1><2><3>)
原告が、本件各事業年度において、東商に対し、タクシー営業権使用料及び車両賃借料として支払ったものにつき、被告は、右タクシー営業権使用料の支払は、虚偽の契約書等により仮装計上されたものであり、右車両賃借料の支払も、虚偽の自動車売買契約書及び車両賃貸借契約書に基づき仮装計上されたものであって、いずれも、その実質は東商に対する贈与であり、法人税法三七条六項の寄付金に該当すると認定した上、損金算入限度超過額を所得金額に加算した(別表(2)<1>。ただし、平成元年三月期のタクシー営業権使用料及び車両賃借料の相手勘定は未払金であり、昭和六一年三月期及び昭和六三年三月期の車両賃借料の相手勘定は長期貸付金である(別表(2)<2><3>))。
(2) 認定利息(別表(2)<4><5>)
被告は、原告と東商との間の営業用自動車の売買は架空であるから、当該車両の売買代金に係る長期貸付金は存在せず、したがって、原告が本件各事業年度において益金として計上した右長期貸付金に対する認定利息も架空のものであると認定した上、右認定利息額を所得金額から減算(別表(2)<4>)又は加算した(別表(2)<5>)。
(3) 車両除却損(別表(2)<6>)
被告は、原告と東商との間の営業用自動車の販売は架空であるから、当該車両は原告に帰属すると認定した上、当該車両の除却について、除却損を計上して本件各事業年度の所得金額から減算した(別表(2)<6>)。
(二) 重加算税の賦課決定処分について
被告は、原告と東商との間のタクシー営業権リース契約及び営業用資産リース契約は架空であり、右各契約に基づいて原告が東商に支払った金員は、真実は原告の東商に対する贈与であるにもかかわらず、リース料支払を仮装したものであるから、前記2の原告の各申告は、課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装したところに基づいてしたものであるとして、重加算税の賦課決定処分をした。
二 争点
原告から東商へのタクシー営業権及び営業用自動車の譲渡の有無
(原告の主張)
1 東商が原告からタクシー営業権を譲り受けた経緯は以下のとおりである。
(一) 東商は、昭和五八年四月初めころ、当時、原告の実質的支配者であった河野を通じて、原告から、その所有する株式、営業権、車両等の有機的営業用財産の譲受けの打診を受けた。
(二) そこで、東商は、同年四月三〇日、まず、河野から原告の株式(有松ほかの名義)を四九五万円で買い受けた。
(三) 続いて、東商は、同年五月二日、原告から、タクシー営業権及び車両を代金合計一億三四五五万〇一〇〇円で買い受けた。なお、河野は、同日、東商から、受領書(甲一五)と引換えに現金、小切手を受領し、さらに、有松から原告代表者印の交付を受けて、正式に領収証(甲一六)を作成した。右購入資金は、すべて東商から原告に支払済みであり、いずれも東商が大分銀行から調達したものであって、東商が右借入金の返済も行っている。
(四) 右の経緯により、原告の株式並びにタクシー営業権及び車両を取得した東商は、書類の作成が不慣れであったが、まず、同年五月ころ、河野が原告の実質的支配を開始した同年四月一日に遡って、車両の売買契約書(甲五)を原告との間で作成した。次に、買い取った同車両の賃貸借契約書(甲六)も、同様に日付を遡らせて作成した。そして、東商と原告は、東商がタクシー営業権を取得した日である同年五月二日付けで営業権リース契約を締結し、さらに、同契約を明確にするために、同年七月五日、契約証書(甲三)を作成した。
(五) 他方、東商は、タクシー営業権を資産として計上し、右リース料及び車両賃貸料をいずれも売上として計上して税務申告を行い、今日に至っている。
2(一) 被告は、東商が一般旅客自動車運送事業の譲受について運輸大臣の認可を受けた事実は認められないから、東商が原告から営業権を取得することは有り得ず、したがって、営業権リース契約書等の契約書はすべて虚偽のものと認められる旨主張している。しかし、右主張は、行政取締法規違反となるか否かの議論と私法上有効となるか否かの議論とを混同するものである。道路運送法の各条項はいずれも行政取締法規であって、その違反が直ちに私法上無効となるものではない。この点は、民法の一般理論として確立しているだけでなく、道路運送法の各条項についても判例上確立している。さらに、仮に、私法上無効であるとしても、課税上は、現実にその経済的成果が収受されていれば、その実質的担税力に応じて課税される。この点も、租税法に関する判例学説上確立しており、租税法規上も、申告に係る各種所得の金額の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われた場合に限って更正の請求が認められ、経済的成果が失われない限り有効として課税される旨定められている(所得税法一五二条、同法施行令二七四条一号)。
(二) 被告は、営業の買収の態様には、営業譲渡として道路運送法三九法(昭和五八年当時のもの。同法については以下すべて同様。)の正規の認可手続を経る場合と会社の買収(株式の買収)という形を採る場合の二つの方式以外に有り得ないと決めつけているが、会社所有の個別財産(不動産、動産、営業権等の無形固定資産)のみを譲渡する方式(さらには、その構成要素である車両のみ、営業権のみを譲渡する方式)もあり、いわゆる併行方式の場合もあるのであって、どの方式を選択するかは、本来、取引当事者の私的自治、取引自由の原則に属することである。問題は、私的自由の原則に則って選択された契約形態は何かという事実認定にあるところ、タクシー業界ではその営業権が商取引の対象とされ、有償で譲渡される商習慣が確立しており、右有償取引が道路運送法の認可手続とは別個に行われるものであること、東商は、昭和五八年四月二一日付け目的変更登記以前から、営業権及び車両を譲り受けてこれを原告にリースし、これと別個に株式を取得する方針が立てられていたこと、その方針(いわゆる併行方式)の採用は、当時の東商のオーナーの一人で法律の専門家である弁護士親子に相談し、指示を受けた結果であったこと、その後、自動車売買契約書、車両賃貸借契約書、営業権リース契約書、株式代金領収書、営業権代金領収書等が作成され、現実に使用料、賃料の授受が反復継続して行われており、原告及び東商とも決算書にその旨計上してきたこと、途中の税務調査において、被告から、使用料、賃料の存在を否認する発言もなく、むしろその存在を是認した上で、金額の多寡について指導がされていることなどからすれば、本件においては、右併行方式が選択されたというべきである。さらに、被告は、事業者が会社である場合、タクシー事業者の買収は、余程のことがない限り会社の買収(株式の買収)の方式をとるのが通常であると主張する。しかし、道路運送法には、同法三九条が事業者たる会社に適用がないとか、少なくとも事業者が会社である場合、営業譲渡として同法条の認可の対象となるのは特殊、異常、例外的であるといったことを窺わせる規定は存在しないから、被告の右主張は、明らかに同法の趣旨に反するものである上、同法に関する行政庁の実務の運用や業界の慣行、法人税法や法人税通達等(法人税法二条二四号、同法施行令一三条八号リ、法人税基本通達七-一-五、所得税基本通達二-一九)にも反する。仮に、会社の株式を買収したとしても、その買収者につき道路運送法六条の二第四号等に該当する事由があれば、その事業免許は取り消されうる(同法四三条三号等)のであるから、株式買収の方式が万全なものとはいえない。被告は、右主張の理由として、営業権を切り売りすれば、譲渡会社は運転手を解雇し莫大な退職金を払わなければならないマイナスを受け、譲渡会社は営業所を確保したり運転手を新たに雇用するロスを受けることを挙げるが、これは、営業権譲渡やM&Aの実務を看過したもので、理由にはならない。
(三) 道路運送法三九条等の諸規定にいう認可の対象は、「事業の譲渡」であって「営業権の譲渡」ではない。タクシー事業(又は営業)とタクシー営業権とは異なる観念である。したがって、東商が、タクシー事業(営業)の譲渡や譲受について認可を得ていないことから、東商が「営業権」の譲受を得ていないと帰結することは、理論的に誤っているし、同法三九条の文言上、運輸大臣の認可が「営業権」の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件であることに疑念の余地はない旨の被告の主張も理由がない。また、本件において、「一般旅客自動車運送事業を営む権利」を「営業権」とした被告の定義も不正確である。営業権は、一般的に営業権の権利者が自らその営業を実施することを要求するものではなく、営業権の権利者が自己以外の他人(又は法人)をして右営業をしうる権利の実行者とし、その営業による生活利益を排他的直接的に支配しうる地位をもって営業権ということも全く問題はないからである。なお、被告は、営業譲渡につき認可も得ていないし、得ようとしないというのでは、刑事的処罰を受ける(道路運送法一二八条一号)という重大な危険を犯すことになる旨主張するが、同法は、タクシー事業(営業)の無認可譲渡を刑罰の対象としているのであり、タクシー営業権の譲渡自体を処罰の対象としているのではないことは、罪刑法定主義を援用するまでもなく、当然のことであるから、右主張も理由がない。したがって、本件処分は、その前提とする「営業権」の観念を誤ったものであり、違法である。
3 以上のように、本件におけるタクシー営業権の譲渡は一個の経済的取引としてその実体を有するものであるから、タクシー営業権使用料及び車両貸借料の支払は、右譲渡に伴うリース契約に基づく代金の支払にほかならず、寄付金等には該当しない。また、原告の東商に対する長期貸付金も、売買契約書(甲五)に基づき、東商に売却した車両代金に係る長期貸付金及び東商が負担することとなった自動車販売会社に対する購入代金残債務について、原告が出捐したことによる長期貸付金として実在したものであり、これに対する認定利息も架空のものではない。さらに、車両除却損についても、右売買契約書によって東商に対し譲渡済みの車両であるから、原告の所有車両として除却損を計上すべきではない。したがって、本件更正処分は理由がない。そして、本件申告は、タクシー営業権の譲渡(ひいてはそれに伴うリース契約)が真実の商取引であることを前提としてされたものであるから、本件重加算税賦課決定処分も理由がない。
(被告の主張)
1(1) 道路運送法四条一項は、「一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない。」、同法三九条一項は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定し、さらに同条三項は同法六条を準用し、右認可に当たって、運輸大臣は同条一項各号に掲げる基準に適合するかどうか審査しなければならないとしている。しかし、東商は右運輸大臣の認可を受けていないから、東商が営業権すなわち一般自動車運送事業を営む権利を原告から取得することは有り得ず、したがって、東商が営業権を取得したことを内容とする営業権リース契約書等の契約書はすべて虚偽のものと認められる。実際にも、営業権の譲渡があったとすれば、譲渡代金は当然に原告に帰属するはずであるが、営業権を一億三九五〇万〇一〇〇円で譲渡したと主張する原告の決算書には、右譲渡代金の計上がなく、その申告もされていない。右一億三九五〇万〇一〇〇円は東商が旧株主である有松らに支払った金員であり、結局、東商は、原告の全株式だけを河野を介して有松らから取得したに過ぎないものである。原告は、東商が、昭和五八年四月三〇日、原告の株式を四九五万円で取得し、同年五月二日、原告からタクシー営業権及び車両を一億三四五五万〇一〇〇円で取得した旨主張するが、時価一億数千万円の価値のある株式をわずか四九五万円の額面金額で取得したとする点、右株式の取得により東商の一〇〇パーセント子会社となった原告から、さらに、営業権等の資産を購入したとする点で極めて不自然であり、到底信用できない。また、原告と東商の間で同年四月一日に締結したとされる売買契約書(甲五)及び車両賃貸借契約書(甲六)については、同日現在の原告の代表取締役は有松であるにもかかわらず、「きんぐタクシー株式会社代表取締役河野秋則」の記名押印がされているところ、河野が原告の代表取締役に名目上ではあるが就任したのは同年五月二日であり、かつ、河野自身も契約締結の事実を否定していること、右売買契約書に添付された物件明細に記載されている営業用車両二七台のうち四台は、契約日の同年四月一日には存在せず、同年六月二〇日以降に購入された車両であること、右自動車売買契約の目的とされた営業用車両については、所有者等登録事項の変更がなされていないこと、東商は、賃貸したとする車両の管理に係る記録等を一切有しておらず、また、右車両賃貸借契約書六条で、「貸借物件の使用中の修繕又は造作、改造をなす場合は、貸借人の承諾を得ること」と規定されているが、貸借人である東商は車両の修繕等に関する記録を有していないことの各事実から、右売買契約書は虚偽のもので、当該車両の譲渡があったとは到底認められず、したがって、車両貸借料の支払もまた仮装したものである。原告から東証への営業権、営業用自動車の譲渡が仮装であることは、原告が主張する右営業権等の譲渡の後、原告から平成はとタクシー株式会社への営業権等の譲渡が行われている(これは、右営業権及び営業用自動車等の所有権が原告に属することを前提とするものである。)ことからも明白である。
(二) 以上のとおり、原告と東商は、虚偽の営業権譲渡契約及び営業権リース契約並びに虚偽の自動車売買契約及び車両賃貸借契約を締結したとして、経済取引事実を仮裝した。これにより、原告は、仮装の営業権使用料及び車両貸借料を計上し、それを損金に算入することで租税負担を回避した。一方、東商は、原告の株式を取得するため借り入れた銀行借入金の返済資金を、仮装した営業権賃貸料及び車両賃貸料収入により、原告に負担させた。右各収入金額は収益となるものの、取得を仮装した営業権は任意に償却することができるから、各事業年度の決算状況に応じて損金に算入することが可能で、それによって利益調整をすることができる。現に東商は、後続の事業年度において営業権を任意に償却し、租税負担を回避した。
2(一) 原告は、前記1(一)の東商が一般旅客自動車運送事業の譲受けについて運輸大臣の認可を受けた事実は認められないから、東商が営業権を原告から取得することはあり得ない旨の被告の主張に対し、行政取締法規違反となるか否かの議論と私法上有効となるか否かの議論とを混同するものであると論難する。しかし、道路運送法三九条一項は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。」と規定しているのであり、その文言上、運輸大臣の認可が営業権の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件であることに疑問の余地はない。また、原告は、仮に、営業権の譲渡が私法上無効であっても、現実にその経済的成果が収受されていれば、課税上は、その実質的担税力に応じて課税される旨主張するが、右主張は、原告から東商への営業権等の譲渡が実際に行われたもののそれが無効であった場合に初めて当てはまることであり、本件のようにそもそも譲渡行為が仮装であって存在しない場合には経済的成果が生ずることは有り得ないから、右主張は失当である。
(二) 新規にある地域に進出しようとするタクシー業者は、既存の事業を買収する方法を採るのが通常であるところ、その態様としては、営業譲渡として道路運送法三九条所定の正規の認可手続を経る場合もあるが、人的物的資産のほとんどが、タクシー営業と一体を成して初めてより一層の価値を持つことから、事業者が会社であれば、余程のことがない限り、会社の買収(株式会社であれば株式の買収)という形を採るのが通常である。それにもかかわらず、タクシー営業権のみを譲渡するのであれば、特別な理由を要するといわなければならない。営業権とその他の会社財産が別々に契約されて売買されたという外形が存在していたとしても、右の特別な理由がないのでは、別々の契約というのは実体のない名目に過ぎないものであるとの疑いを持たれたとしても当然である。まして、営業譲渡につき認可も得ていないし、得ようとしないというのでは、タクシー営業権を譲り受けることによって刑事的処罰を受ける(道路運送法一二八条一号)という重大な危険を犯すことになるのであるから、あえて右危険を犯してまで別々の売買契約をする理由がないという意味においても、営業権のみを対象とした別個独立の譲渡行為が存在した旨の原告の主張は完全に否定できる。なお、原告は、被告の右主張を、企業買収の方法として、株式所有者からの株式取得の方法しか有り得ないと短絡したものであると批判しているところ、被告は、企業買収の方法として、株式所有者からの株式取得の方法しか有り得ないと主張しているのではなく、前記1(一)のとおり、東商が時価一億数千万円の価値のある株式をわずか四九五万円の額面金額で取得したとする点、右株式の取得により東商の一〇〇パーセント子会社となった原告から、東商が営業権等の資産を購入したとする点で、原告の主張が極めて不自然であると主張しているのであるから、右批判は失当である。
(三) 原告は、「営業権の譲渡」と道路運送法三九条一項に規定する「事業の譲渡」とは異なる旨主張するが、なぜ営業権の譲渡が「事業の譲渡」に含まれないのかについて、およそ理由らしい理由を説明していない。自ら事実として営業しなければ「事業の譲渡」には当たらないとし、原告と東商との間の「営業権の譲渡」なるものが「営業権権利者が、自己以外の他人(又は法人)をして右営業をしうる権利の実行者として、その営業による生活利益を排他的直接的に支配しうる地位の譲渡」であるとする趣旨とも考えられるが、同条項にいう「事業の譲渡」とは、例えば旅客自動車運送事業であれば、他人の需要に応じ、自動車を使用して旅客を運送するため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡することを意味するものと解されるところ、原告の主張によっても、東商は原告が保有していたタクシー営業権及び営業用自動車のすべてに対する権利を一億三四五五万〇一〇〇円で譲り受ける契約をしたことになるのであるから、そのとおりであれば、右「事業の譲渡」に該当することは明白であり、「タクシー営業権」の譲渡だけを取り上げて、これが「事業の譲渡」に該当するか否かを論ずること自体意味がない。さらに、道路運送法は、名義の利用、事業の貸渡しの禁止(同法三六条)、事業の管理の受委託の許可制(同法三八条)を規定し、その違反に対しては罰則をもって臨んでいる(前者について同法一二八条二号、後者について同法一二八条の三第一号)のであるから、原告が締結したとする「営業権の譲渡」契約が前記のような形態のものであれば、重ねて道路運送法に違反することは明らかであり、タクシー事業を営んでいる原告及びこれに精通している東商がこのような法律に違反する契約を締結したとするのは著しく不自然である。また、原告自身、平成はとタクシー株式会社(原告が一時期使用していた商号を使用する別会社)への事業の譲渡の際に九州運輸局長に提出した一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡授受契約書において、「一般乗用旅客自動車運送事業の権利」すなわちタクシー営業権を譲渡の対象とし、平成はとタクシー株式会社への事業の譲渡に関する原告の臨時株主総会においても、「当社が有している一般乗用旅客自動車運送事業の営業権及びこれに関する資産、負債を平成はとタクシー株式会社(設立発起人代表梅野眞語)に譲渡する。」という議案を満場一致で原案どおり可決しているのであり、原告が平成はとタクシー株式会社に営業権を譲渡したこと、すなわち右営業権譲渡以前には東商ではなく原告が営業権を享有していたことは明白である。
3 以上のとおり、売買契約書(甲五)は虚偽のもので、売買の事実は存在しないと認められる。したがって、車両代金に係る長期貸付金も存在しないから、これに基づき計上された本件各事業年度の認定利息を所得金額から減算(又は加算)した本件更正処分は適法である。また、当該車両は原告に帰属することになるから、その除却に基因する損失の額を原告の本件各事業年度の所得金額から減算した本件更正処分は適法である。さらに、原告と東商との間で締結された営業権リース契約書、自動車売買契約書及び車両賃貸借契約書は虚偽のものであり、原告が、営業権等使用料の名目で支払った金員は、東商の銀行借入返済資金に充てることを目的どした東商に対する贈与と認められる。原告は、これを営業権等使用料と仮装し、それを損金に算入し、所得金額を過少に申告していたものである。このことは、国税通則法六八条一項に規定する課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことに当たるから、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定をした本件処分は適法である。
第三争点に対する判断
一 前記争いがない事実に、証拠(甲一、二の1、2、三ないし八、九の1ないし3、一〇の1ないし3、一一の1ないし3、一二の1ないし3、一三の1ないし3、一四の1ないし3、一五、一六、一七の1ないし8、一八、一九の1、2、二〇、二一の3、二二の1ないし七、二三、乙二ないし三〇、三一の1ないし6、三二ないし四〇、四一の1ないし6、四二、五二、五三の1ないし3、五四、五五の1、2、五六、証人河野秋則、同永井正、同梅野保、同梅野朋子)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、乙三一の1及び右各証人の証言のうち、右認定に反する部分はいずれも採用できない。
1 原告は、一般乗用旅客自動車運送事業及び同事業に附帯する一切の業務を目的とする、いわゆるタクシー業を営む株式会社であり、有松により昭和四〇年一〇月八日に設立された。原告の商号は、設立当初、きんぐタクシー株式会社であったが、昭和五八年七月一日から第二はとタクシー株式会社、平成元年一月一〇日から平成はとタクシー株式会社、同年二月八日から再び第二はとタクシー株式会社に順次変更され、現在に至っている。
2 東商は、大分県下のタクシー会社六社を構成会社とし別府市に拠点を置く「はとタクシーグループ」に属する株式会社である。昭和五六年七月四日の設立当初、東商の株式は、右グループのオーナーである梅野及びその一族が五〇パーセント、右グループの顧問弁護士である内田達夫及びその次男の内田正紀がその余の五〇パーセントを所有しており、代表取締役には内田正紀が就任していたが、内田親子は、東商の経営を梅野らに一任していた。東商は、医薬品、食品、雑貨等の輸出入及び販売並びに不動産販売等を目的としていた(なお、昭和五八年四月二〇日、不動産、動産の賃貸等をその目的に追加し、翌二一日に登記をしている。)が、昭和五八年三月ころまでは実質的な経済活動をほとんど行っておらず、平成元年八月まで法人税の確定申告もしていなかった。
3 昭和五八年五月まで原告(きんぐタクシー株式会社)の代表取締役であった有松は、原告を売却しようと考え、昭和五八年三月ころ、友人の河野に対し、売却先は大分県以外の業者に限るとの条件を付けた上で、売却方の仲介を依頼するとともに、できれば河野自身に原告を買い取ってもらいたい旨申し入れた。これに対し、河野は、タクシー会社の経営に興味を持っていたことから、自ら原告を買い受けたいと考え、タクシー一台当たりの価格を一〇〇万円ないし一五〇万円、原告が所有するタクシーの代数を三〇台程度として、買収価格を五、六千万円程度と判断し、有松に対し右金額を伝えたが、有松の希望売却価格が一億円を超えていたため、資金調達の目処が立たず、自ら原告を買い受けることを断念した。ところで、河野は、かねて、知り合いの梅野から、タクシー会社の買収の話があれば仲介して欲しい旨頼まれており、これまでにも梅野に対し、大分はとタクシー株式会社の買収を仲介したことがあった。そこで、河野は、今回も原告の買収の仲介をしようと考え、梅野に対し、原告を買収する話をしたところ、梅野は、東商において買い受けることを前提に、右買収に積極的な姿勢を示し、河野に対し、仲介手数料として二〇〇万円を支払うことを約束した上で、同人に有松との交渉を一任した。もっとも、河野は、直接東商が買い受けることになると、大分県以外の業者に限るとの前記条件に反し、有松の承諾が得られないであろうと考え、表面上はあくまで河野自身が買い受ける形で交渉を続けることにした。その結果、河野は、有松との間で、原告を一億三九五〇万〇一〇〇円で買い受けること、買収後も有松を原告の役員として二年間雇用し、その間、給料として手取月額四〇万円を保証することで合意した。昭和五八年三月一〇日ころ、河野は、東商から右買収の手付金として現金五〇〇万円を預かった上、これを有松に支払った。
4 同年五月二日、河野は、東商から右買収の残代金として小切手と現金で合計一億三四五〇万〇一〇〇円を預かった上、これを有松に支払った(もっとも、原告の決算書には、右譲渡代金の計上がなく、その税金の申告もされなかった。)。これと引換えに、有松は、河野に対し、原告の会社印、原告所有名義の不動産権利証、株式譲渡承認請求書、株式譲渡承認書、株券等を交付し、河野は、即日、これらを東商に交付した。この結果、原告の全株式四九五〇株は、有松他五名の株主から、河野を介して、東商に譲渡され、東商は、原告の株式を一〇〇パーセント保有する株主となった。また、河野は、前記3のとおり、あくまで有松に対して自ら直接買い受けた形式を貫く必要があったため、右同日、名目上、原告の代表取締役に就任した(登記は同月四日にされた。)が、同年六月一七日、梅野から仲介手数料として二〇〇万円の支払を受け、経営に参加することもないまま、同年七月五日、代表取締役を辞任した。なお、右買収に際し、東商は、道路運送法三九条一項の「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受」についての運輸大臣の認可を受けていない。
5 東商は、原告を買収する資金として、一億五〇〇〇万円を株式会社大分銀行から借り入れたが、右買収に際して作成されたものとして原告から提出された営業権リース契約書(甲七)には、右借入金のうち、前記買収の代金に相当する一億三九五〇万〇一〇〇円につき、東商が原告に貸し付けたことを確認するとともに、双方間において、別途、営業用の車両賃貸借契約を結び、その賃貸借金をもって、原告が東商に対し、右金員の返済を行う旨記載されている。そして、その後、東商の株式会社大分銀行に対する右借入金の利息を含めた月々の返済額に基づき、原告が、東商に対し、右賃料名下に、月々、継続的に支払う金額の改定が行われ、実際に、その支払が行われている。
6 ところで、原告は、東商に対する営業用自動車の譲渡の事実を裏付ける証拠として、昭和五八年四月三〇日から同年五月二日までの間に、東商との間で作成されたとする同年四月一日付け自動車売買契約書(甲五)及び同日付け車両賃貸借契約書(甲六)を提出している。しかし、原告が、昭和五九年九月ころ、被告所属の調査担当係官に提出した自動車売買契約書(乙三一の4。本文の内容は前記甲五と全く同じもの。)に添付された自動車内訳明細書には、昭和五八年五月二日時点では存在しない同年七月二〇日から同年九月二八日までの間に登録された自動車三台が記載されている(ちなみに、原告が同年七月九日付けで作成した「車両賃貸借契約書」(甲四)に添付された自動車内訳明細書にも同様の記載がある。)から、右各契約書は、いずれも、同年九月二八日以降の時期に、梅野らの関係者によって日付を遡らせて作成されたものと認められる(原告は、乙三一の4につき、本文がゴシック体であるのに対し、これに添付された自動車内訳明細書は明朝体であるから、同一時期の一体文書であるというのは不当であって、字体の一致する甲五が同契約書の完全な文書であり、右明細書は甲四に添付されるべきであった旨主張するが、原告が完全証拠であると主張する甲六も本文が明朝体、添付された明細書がゴシック体であるから、右主張は失当である。)。そして、右売買契約の目的とされた営業用車両について、原告から東商への所有者等登録事項の変更はされていない。また、東商は、賃貸したとする車両の管理に係る記録等を有しておらず、右車両賃貸借契約書六条で、「貸借物件の使用中の修繕又は造作、改造をなす場合は甲(東商)の承諾を得る事」と規定されているにもかかわらず、車両の修繕等に関する記録を有していない。
7 原告は、平成元年三月一四日開催の臨時株主総会において、「当社が有している一般乗用旅客自動車運送事業の営業権及びこれに関する資産、負債を平成はとタクシー株式会社(設立発起人代表梅野眞語)に譲渡する。」旨の議案を満場一致の決議をもって可決した上、同会社(原告が一時期使用していた商号と同一の商号を使用する「はとタクシーグループ」に属する別会社)との間で、同会社に対し、大分市を事業区域とする一般乗用旅客自動車運送事業の権利、義務及び事業用自動車、什器備品、機械器具一式等を一〇〇〇万円で譲渡する旨の一般乗用旅客自動車運送事業の譲渡譲受契約を締結し、同年四月二〇日付けで、九州運輸局長に対し、右譲渡譲受についての運輸大臣の認可を申請し、同年七月四日付けで、右認可を得た。
二 ところで、道路運送法四条一項は、「一般自動車運送事業を経営しようとする者は、運輸大臣の免許を受けなければならない」と規定し、同法三九条一項は、「一般自動車運送事業の譲渡及び譲受は、運輸大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない」として運輸大臣の認可が営業権の譲渡及び譲受の私法上の効力発生要件である旨規定し、さらに、同条三項は六条を準用し、右認可に当たって、運輸大臣は同条一項各号に掲げる基準に適合するかどうか審査しなければならないとされている。そして、同法四条一項の規定に違反して一般旅客自動車運送事業を経営した者には刑事罰(一年以下の懲役もしくは二〇〇万円以下の罰金又はこれらの併科)が科される(同法一二八条一号)から、認可を受けないでタクシー事業を譲り受けることは、右刑事罰を受ける危険を犯すことになる。この点につき、原告は、同法が認可の対象としているのは「(タクシー)事業の譲渡」であって「(タクシー)営業権の譲渡」ではなく、営業権の権利者が自己以外の他人(又は法人)をして右営業をしうる権利の実行者とし、その営業による生活利益を排他的直接的に支配しうる地位をもって営業権ということも全く問題はないから、本件のように、東商が、事業の認可を受けた原告を主体として当該営業(事業)をなさしめることは、認可の対象にも罰則の対象にもならない旨主張する。しかし、同法にいう「事業の譲渡」とは、旅客自動車運送事業の場合、他人の需要に応じ自動車を使用して旅客を運送するため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡することを意味するものと解されるところ、原告の主張する意味における営業権の譲渡も右「事業の譲渡」に当たることは明らかである上、原告は東商に対し、タクシー営業権と同時に事業用自動車に対する原告の権利をすべて譲渡したと主張しているのであるから、タクシー営業権の譲渡のみを取り上げて、これが「事業の譲渡」に当たるか否かを論ずる意味はないというべきでしる。したがって、本件が同法の認可の対象にも罰則の対象にもならないとする原告の右主張は理由がない。
三 さらに、前記一の認定事実によれば、東商は、道路運送法上、タクシー事業の譲受の効果が生じるために必要とされる運輸大臣の認可を受けていないばかりか、東商が原告から営業用車両を譲り受けたことを前提に主張する車両賃貸借契約についても、東商は、その車両の管理や修理等に関する記録等を一切有していないのであり、他方、原告も、商業帳簿に右営業権及び車両の譲渡代金を計上せず、その税金の申告もしていなかったほか、原告から東商へ売却したとされる営業用車両について、東商への所有者等登録事項の変更をしておらず、しかも、後日、営業権及び事業用自動車等の所有権が原告に属することを前提として、平成はとタクシー株式会社(はとタクシーグループ内の原告とは別会社)に対して右営業権等を譲渡しているのであるから、原告から東商への営業権の譲渡及び営業用自動車の譲渡は、いずれも仮装されたものであるといわなければならない。ところで、原告は、東商が原告の株式を額面総額の四九五万円で取得した後、原告からタクシー営業権及び車両を一億三四四五万〇一〇〇円で取得したとし、これは、個別財産の譲受と株式所有者からの株式取得とを併行させるいわゆる併行方式を採用したものである旨主張するが、株式を時価よりも著しく低額である額面金額で取得したとする点及び右株式の取得により東商の一〇〇パーセント子会社となった原告から、さらに東商が営業権等の資産を購入したとする点で通常の取引形態と比較して極めて不自然である上、前記のとおり、営業権の譲渡に必要な認可手続がされていないことや買収に伴う書類の作成経過などをも併せ考慮すれば、右主張は到底採用できない。なお、原告は、仮に営業権の譲渡が私法上無効であるとしても、課税上は、現実にその経済的成果が収受されていれば、その実質的担税力に応じて課税されるのであり、無効な行為により生じた経済的成果が、その行為の無効であることに起因して失われた場合に限って更正の請求が認められる旨主張するが、本件においては、そもそも右譲渡行為自体が仮装である以上、それに伴う経済的成果が生ずることもないから、右主張は前提を欠くものであって、失当である。そして、前記一5で認定した事実を併せ考慮すれば、原告は、仮装の営業権使用料及び車両貸借料を損金に算入することで租税負担を回避し、他方、東商は、原告の全株式を取得するため借り入れた銀行借入金の返済資金を仮装の営業権賃貸料及び車両賃貸料収入により原告に負担させ、各事業年度の決算状況に応じて営業権を減価償却の対象とすることで租税負担を回避したものと認められる。
四 以上によれば、営業用自動車の売買を前提とする車両代金に係る長期貸付金は存在しないと解されるから、これに基づき計上された本件各事業年度の認定利息を所得金額から減算(又は加算)した本件課税処分に違法はなく、また、当該車両は原告に帰属することになるから、その除却に起因する損失の額を原告の本件各事業年度の所得金額から減算した同処分に違法はない。さらに、原告と東商との間で締結された営業権リース契約、自動車売買契約及び車両賃貸借契約は虚偽のものであり、原告が、営業権等使用料の名目で支払った金員は、東商の銀行借入金の返済資金に充てることを目的とした東商に対する贈与と解されるところ、原告は、これを営業権等使用料として損金に算入し、所得金額を過少に申告していたのであるから、これを国税通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ことに当たるとして、過少申告加算税に代えて重加算税の賦課決定をした本件課税処分に違法はない。
五 結論
よって、本件課税処分が違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。
(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 高橋亮介 裁判官 木太伸広)
別表(1)の1
<省略>
別表(1)の2
<省略>
(A)の算出過程
<省略>
別表(2)
<省略>
<省略>